浄土真宗の戒名(法名)とは?決め方と、料金表がない理由

身内が亡くなり、浄土真宗での葬儀を控えるなかで、戒名の費用や決まり方を調べている方は少なくありません。結論から申し上げますと、浄土真宗には「戒名(かいみょう)」というものは存在せず、代わりに「法名(ほうみょう)」を授かります。また、他宗派のようなランク別の料金表という仕組みもありません。
高齢のご家族のもしもの時に備え、事前に葬儀や供養の相談をしたいけれど、利益優先のサイトやお寺の敷居の高さに不安を感じ、お一人で悩みを抱えている方もいます。この記事では、どの派閥にも属さない単立寺院である西栄寺の住職が、法名の意味と費用の考え方を解説します。
浄土真宗で「戒名」ではなく「法名」と呼ぶ理由
「戒名」と「法名」は、同じものを言い換えただけの言葉ではありません。浄土真宗が法名を用いるのには、教えの根本に関わる理由があります。
戒名と法名は何が違うのか
私は僧侶になって70年、住職として40年という歳月を歩んでまいりました。その長年の経験のなかで、多くのご遺族から「戒名と法名は何が違うのですか」というご質問をいただいてきました。
一般的な仏教の宗派では、亡くなった後に授かる名前を「戒名」と呼びます。しかし、浄土真宗においては一貫して「法名」と呼びます。この違いは、それぞれの宗派が重んじる教えの違いから生じているものです。
自力修行をしない浄土真宗に「戒名」がそぐわない理由
他宗派における「戒名」とは、仏教の戒律を守ることを誓い、自力修行を行う出家者に対して授けられる名前です。
しかし、浄土真宗の教えでは、自力で厳しい修行をして戒律を守るという道は選びません。よくあるご質問|浄土真宗本願寺派(西本願寺)によると、浄土真宗では「戒名」という言い方はしません。なぜならば、戒名は、自力修行をめざし受戒した人に対して授けられる名前であり、自力修行をしない浄土真宗にはそぐわないからです。
私たちは、阿弥陀さまの慈悲の力(他力)によって、そのままの姿で救われ、浄土へ往生させていただくという教えを信じています。そのため、戒律を守る必要がなく、仏さまの法(教え)に帰依した証しとして「法名」を授かるのです。
他宗派の戒名と対応させて理解する
他宗派の戒名には、信士(しんじ)・信女(しんにょ)、居士(こじ)・大姉(たいし)といった、信仰の深さやお寺への貢献度に応じた「位号(いごう)」と呼ばれるランクが名前の末尾につきます。
これに対して、浄土真宗の法名にはこのような位号によるランク分けが一切ありません。すべての人が阿弥陀さまの前で平等に救われるという教えに基づいているため、他宗派の戒名のような格付けは行わないのが大きな特徴です。
法名の構成と「釋」の意味

では、その法名は実際にどのような形をしているのでしょうか。浄土真宗の法名には、宗派が文書で定めた明確な決まりがあります。
法名は漢字二字・「釋」の字を冠する
私はかつて浄土真宗本願寺派の僧侶として活動しておりましたが、現在は「どの派閥にも属さない『単立寺院』」として西栄寺を設立し、活動しています。本記事では、本願寺派と大谷派それぞれの規程をもとに、法名の考え方を解説します。
法名の授与に関する寺達|浄土真宗本願寺派(西本願寺)によると、法名の基本的な構成は以下の通りに規定されています。
法名は、漢字2字とし、「釋」の字を冠するものとする。
このように、法名そのものは極めてシンプルに「漢字二字」で表され、その前に「釋(しゃく)」という文字を置くのが正式な形です。
「釋」が表しているもの
法名に冠される「釋」という文字は、仏教の開祖である「釈迦(お釈迦様)」の弟子になったことを意味しています。
浄土真宗の開祖である親鸞聖人も、自らを「釋の親鸞」と名乗られました。私たちは法名を授かることで、時代や立場を超えて、お釈迦様と同じ「釈氏(しゃくし)」の一員、すなわち仏弟子として歩み出すことになります。
法名は誰がどう決めるのか
法名は、寺院から授かるものです。法名をいただく(帰敬式)|真宗大谷派(東本願寺)によると、「「法名」には、真宗本廟(東本願寺)で選定された法名(本山選定法名)とお手次ぎのお寺の住職につけていただく法名(住職選定法名)があります」とされています。本山が選ぶ場合と、日頃お世話になっているお寺の住職が選ぶ場合があるということです。
また本願寺派には、自分が希望する法名を願い出る「内願法名」という仕組みもあります。ただし帰敬式冥加金等に関する条例|浄土真宗本願寺派(西本願寺)では、「内願法名を願出る者は、 第2条 の規定による冥加金のほか、別に定める懇志を進納するものとする」と定められています。
なお、あらかじめ用意された一覧から法名を選ぶ、という形にはなりません。東本願寺は「私たちの名前は、親の願いがかけられて名づけられたものです。一方、帰敬式を受けると「釋」又は「釋尼」の字が冠せられた二字の法名を賜ります。これは仏さまからの願いがかけられた名前といってもいいでしょう」と説明しています。
いずれの場合も、まずはお世話になっているお寺の住職にご相談ください。
男性・女性・子どもで法名は変わるのか
伝統的には、男性の場合は「釋〇〇」、女性の場合は「釋尼(しゃくに)〇〇」と表記されることが一般的でした。
しかし、現代においてはジェンダー平等の観点や社会の変化に伴い、法名の扱いにも変化が見られます。たとえば浄土真宗本願寺派では、1989(平成元)年3月31日以前にすでに「釋尼○○」の法名を受けている方を除き、性別に関わらず「釋○○」とする扱いになっています。一方、真宗大谷派では「法名は、伝統に則り男性には「釋〇〇」、女性には「釋尼○○」の法名を基本として授与されますが、受式される方の願い出に応じて「釋」あるいは「釋尼」を選択できます(選択事由は問いません)」とされており、派によって扱いが異なります。また、子どもの場合であっても特別な位号は用いず、大人と同様に「釋〇〇」という法名が授けられます。
法名に「ランク」や決まった料金表がない理由
他宗派の戒名には「居士」「大姉」といった位号があり、位によって金額が変わると聞いたことがあるかもしれません。浄土真宗に、その仕組みはありません。
位号による格付けが浄土真宗にはない
他宗派の葬儀では、戒名のランク(位号)によってお布施の額が大きく変動することがよくあります。しかし、浄土真宗にはそもそも法名のランクという概念が存在しません。
阿弥陀さまの救いは、社会的地位や貧富の差、性別に関係なく、すべての人に平等に注がれます。そのため、お布施の金額によって法名に差がつくような仕組みは、浄土真宗の教義においてあり得ないことなのです。
お布施は法名の対価ではない
葬儀の際にお寺にお渡しするお布施は、法名という「名前」を購入するための対価ではありません。
よくあるご質問|浄土真宗本願寺派(西本願寺)によると、葬儀や法事などで僧侶に差し出す金封に書かれる「御布施」は、お寺の本尊である阿弥陀さまにお供えするためのものです。そのため、僧侶に渡す金封で「御布施」以外の「御礼」「御経料」「回向料」といった言葉を使うことは、その趣旨から言ってふさわしくないとされています。お布施はあくまでも感謝の気持ちを表すお供えであり、サービスの代金ではないのです。
院号は本願寺派で別に定めがある
浄土真宗の法名において、例外的に「院号(いんごう)」と呼ばれる称号がつくことがあります。
院号とは、お寺や宗門の維持発展に貢献した門徒に対して贈られるものです。授与の基準は宗派ごとに定められており、本願寺派にも規定があります。ただし、これは法名そのもののランクではなく、あくまでも「お寺を支えてくれたことへの敬意と感謝の印」として授与されるものです。
包む額に迷ったときの考え方
お布施に決まった料金表がないからこそ、「いくら包めばよいのかわからない」と不安に思われる遺族の方は非常に多いものです。
お布施の額に迷った際は、ご自身の経済的な状況や、お寺とのこれまでの関係性を考慮して、無理のない範囲で感謝の気持ちを包むのが基本となります。具体的なお布施の書き方や包み方の作法については、浄土真宗のお布施の書き方を解説した記事で詳しく紹介しています。
生前に法名を授かる「帰敬式」

法名は亡くなってから授かるもの、と思われがちです。しかし浄土真宗では、生きているうちに受けることができます。
帰敬式とはどのような儀式か
浄土真宗では、亡くなってからではなく、生きているうちに法名を授かることができます。このための儀式を「帰敬式(ききょうしき)」、または「おかみそり」と呼びます。
帰敬式の執行に関する寺達|浄土真宗本願寺派(西本願寺)には、以下のように記されています。
帰敬式を受けた者には、法名を授与する。
この儀式では、門主(もんしゅ)さまから頭頂に剃刀(かみそり)を当てられる「お剃刀」の儀を経て、仏弟子としての自覚を新たにし、法名を授かります。
大谷派の案内では、この場面が「ご本尊の前で「三帰依文」を唱和し、執行者から剃刀が3度、頭にあてられます。実際に髪を剃ることはありませんが、髪をおとすことをかたどった儀式です」と説明されています。剃刀を当てるといっても、髪を切るわけではありません。
本山で受ける場合の冥加金も、本願寺派では条例で定められています。帰敬式冥加金等に関する条例|浄土真宗本願寺派(西本願寺)は「受式者は、次の区分により、冥加金を進納するものとする」と定め、その区分として挙げているのは成人と未成年者の2つだけです。位号や家柄によって額が変わる仕組みは条文にありません。なお、冥加金の額は宗派が定めるもので改定されることがあり、受式される場所によって案内が異なる場合もあります。実際に納める額は、受式される本山や所属の寺院にご確認ください。
亡くなってからでなくてもよいという考え方
仏教の教えに耳を傾け、自らの生き方の指針とするのは、他ならぬ「今を生きている自分自身」です。そのため、生前に帰敬式を受けて法名を授かることこそが、浄土真宗においては本来の望ましいあり方とされています。
生前に法名を授かっておくことで、自らの人生を仏弟子として心豊かに歩むことができ、万が一の際にも、すでに法名を持っている状態で厳かに葬儀を執り行うことができます。
授かった法名の記し方(法名軸と過去帳)
授かった法名を、その後どのように記し、お仏壇にお迎えするのか。ここにも他宗派とは異なる作法があります。
法名軸と過去帳への記し方
浄土真宗では、授かった法名を「法名軸(ほうみょうじく)」や「過去帳(かこちょう)」に書き写して、お仏壇に安置します。
法名軸とは、法名を記すための小さな掛け軸のことで、お仏壇の内側の側面に掛けて飾ります。過去帳は、一族の亡くなった方の法名や俗名、命日などを記録しておく帳面です。これらは、お寺の住職に依頼して筆書きしてもらうのが一般的です。
浄土真宗で位牌を用いない理由
他宗派の仏壇でよく見られる黒塗りの「位牌(いはい)」を、浄土真宗では原則として用いません。
位牌は、故人の霊がそこに留まる依り代(よりしろ)とされます。しかし浄土真宗では、亡くなった方のゆくえをそのようには受け止めません。いのちを終えるとどうなる?|浄土真宗本願寺派(西本願寺)は、「このいのちを終えると、阿弥陀さまのお浄土に往き、仏として生まれさせていただく」と述べています。
このように、亡くなればただちに仏となられる(往生即成仏)と受け止めるため、故人の霊がこの世に留まって彷徨うとは考えず、霊の依り代としての位牌も用いません。その代わりに、仏さまとなられた故人を偲び、感謝を捧げる対象として、法名軸や過去帳を大切にお祀りします。
浄土真宗の戒名(法名)に関するよくある質問
法名について、ご遺族から実際にお受けすることの多い質問をまとめました。
浄土真宗の戒名(法名)は何文字ですか?
浄土真宗の法名は、原則として「釋〇〇」の「計3文字」、または女性で尼をつける場合は「釋尼〇〇」の「計4文字」となります。
院号がつく場合は「〇〇院釋〇〇」となり文字数は増えますが、法名そのものの部分は常に「漢字二字」で構成されるのが特徴です。
浄土真宗で法名はいらないというのは本当ですか?
浄土真宗の門徒として葬儀や法要を執り行う場合、法名は必要不可欠なものです。
法名は仏弟子となった証しであり、浄土真宗の教えに則って供養を執り行うためには、俗名のままではなく法名を授かることが正式な作法とされています。
法名を授かるのにいくらかかりますか?
法名そのものに決まった値段や料金表はありません。位号によるランクで額が変わる仕組みが、浄土真宗にはないためです。本願寺派の本山で帰敬式を受ける場合も、条例が区分として定めているのは成人と未成年者の2つだけです。ただし冥加金の額は改定されることがあり、受式される場所によって案内が異なる場合もあるため、事前にご確認ください。
没後に葬儀の際にお寺から授かる場合は、お布施全体のなかに含まれることが多く、法名単体での「料金」というものは存在しません。
浄土真宗の法名で女性につく文字や特徴はありますか?
伝統的には、女性の法名には「釋」の後に「尼」の文字が入り、「釋尼〇〇」となる特徴がありました。
しかし現代では、ジェンダー平等の観点から「尼」をつけずに男女共通で「釋〇〇」とするケースが増えており、所属する派閥や個人の希望によって選択が可能です。
生前に浄土真宗の法名を授かるにはどうすればいいですか?
生前に法名を授かるには、所属するお寺(菩提寺)を通じて、本山で開催される「帰敬式」に申し込む必要があります。
本山にお参りして儀式を受けるのが正式ですが、お寺によっては住職が代行して執り行う場合もありますので、まずは一度ご相談ください。
浄土真宗の法名にある「釋(しゃく)」とはどういう意味ですか?
「釋」という文字は、仏教の開祖であるお釈迦様(釈尊)の名字から取られたものです。
この文字を法名に冠することで、自分が仏教の開祖であるお釈迦様の弟子(釈氏)のひとりになったことを表しています。
浄土真宗本願寺派と真宗大谷派で法名に違いはありますか?
基本的な構成は同じですが、表記や一部のルールに細かな違いがあります。
例えば、本願寺派では「釋」という旧字体を使用することが多いのに対し、大谷派では「釈」という新字体を用いることがあります。また、女性の「尼」の文字の扱いについても、各派で方針が異なります。
浄土真宗で院号を授かるにはどうすればいいですか?
院号を授かるには、所属するお寺や本山に対して、一定額以上の懇志金(お布施)を納めるなどの貢献が必要となります。
具体的な基準や手続き、必要となる懇志の目安額は、本願寺派や大谷派などの各派閥によって個別に定められています。
まとめ
浄土真宗における「法名」は、他宗派の「戒名」とは異なり、戒律を守るための名前ではなく、仏弟子となった証として授かる名前とされています。本山や住職が選ぶもので、あらかじめ用意された一覧から選ぶという形にはなりません。位号によるランクがないため他宗派のような料金表も存在せず、お布施は法名の対価ではないと説明されています。
なお、浄土真宗の葬儀や法要で読まれるお経の意味については、別の記事で詳しく解説しています。
身内が亡くなり、これからの葬儀や供養について不安を抱えている方は、どうぞひとりで悩まずにご相談ください。西栄寺は大阪市西淀川区に本坊を置く、どの派閥にも属さない単立寺院です。法名についてのご相談もお受けしています。











