墓じまいについて

 ここ数年ですっかり「墓じまい」という言葉が世間に定着しました。昔から無縁墓の問題は存在しましたが、新しい価値観を伴った「墓じまい」という言葉は、先祖代々のお墓を手離す罪悪感を薄め、躊躇する人々の背中をそっと押してくれるように思います。物を大切にする昔ながらの日本的価値観が「断捨離」という言葉によって局所的に駆逐されたように、「墓じまい」という言葉はお骨の取り扱い対する日本人の意識を変えるだけの力を備えているといっても過言ではないと思います。

 日本人のライフスタイルの急激な変化がお墓の問題として顕在化してきたわけですが、聞くところによると地域によっては墓地の半数以上が無縁墓として放置されている事もあるそうです。それを考えると墓じまいとはむしろ「ちゃんとしている」行為ではないだろうかというのが私の印象です。前段の書き方だと墓じまいに否定的なように思われるかもしれませんが、年に一度きり田舎のお墓にお参りするよりは、月に一度でも近くの納骨堂へお参り下さる方がよろしいのではないかと思います。お墓という在り方そのものに価値がある訳ではなく、そこにお参りにいこうと思うそのお気持ちにこそ価値があるのでしょうから、お参りに行きたくても行けないジレンマを解消するために墓じまいを考えるのは決して間違いではありません。

 一時期、各地で「墓じまいセミナー」などと銘打ったイベントが盛んに開催されておりましたが、「墓じまい」という言葉の分かりやすさとは裏腹に、実際の墓じまいは煩雑な手続きが不可欠です。最初の一歩と、その後のおおまかな流れだけでも把握しておきたいところですが、その手のセミナーはそれにうってつけと言えるでしょう。僭越ながら私も二度ほど「墓じまいセミナー」の講師としてお話させて頂いた経験がありますので、出来る限りその時の内容をここに記しておきたいと思います。

◎墓じまいの手順

※以下はあくまで一般的な例であり自治体によって様々な違いがありますので、まずは墓じまいを考えているお墓の所在地にある該当機関にお問い合わせください。受付窓口は市役所の市民課もしくは生活環境課となっているところが多いようです。「改葬許可証」の発行手順について、とお尋ねください。

① お墓のある地域の役所に確認して「改葬許可申請書」を貰います。自治体によっては現地まで行かずとも市のホームページからPDFファイルを印刷できる場合がありますので確認してみて下さい。
② 墓じまい後の受け入れ先(近隣の納骨堂など)を探す必要があります。見つかりましたらそちらの管理者に墓じまいする旨を伝えて「受入証明書」を発行してもらいます。
③ 現在のお墓の管理者の方に「埋蔵証明書」を発行して頂きます。改葬許可申請書にその欄がある場合はそこに記入捺印して頂きます。
④ ①の受付窓口へ「改葬許可申請書」「受入証明書」「埋蔵証明書」を揃えて提出し、「改葬許可証」の発行を受けます。
⑤ 霊園管理者、石材店と相談の上、墓じまいの日にちを決め、当日にお骨を取り出します。(この項目でお困りの場合は西栄寺より石材店のご紹介を承りますのでご相談下さい。ただし関西圏に限ります)
⑥ ②の受け入れ先に納骨します。その際に改葬許可証を提出します。

墓じまいは概ね上記のような流れで行います。

 さて、最後に墓じまいの際のトラブルについて申し上げておきます。多いのは親族間での揉め事です。人によってお墓の持つ意味合いは大きく変わります。相手の意志を無視して強引に進めると無用なトラブルに発展しかねません。親族同士でしっかりと話し合い、お互いの同意の上で墓じまいを行って下さい。

 また、お墓が寺院の敷地内にある場合、墓じまいしようとした際に高額の「離檀料」を請求されるケースがあるようです。原則として払う必要の無いものですが、稀なケースとして納骨時に契約書を交わしている場合、契約書に盛り込まれた「離壇料」は判例で認められていますので注意が必要です。いずれの場合も誠意を持って話し合うことで避ける事が出来たかもしれません。

 墓じまいはお墓を捨ててご先祖様を蔑ろにする行為だと誤解されがちです。しかしお世話も出来ない遠隔地のお墓から、自宅近くのお参りしやすい場所へとご遺骨をお迎えする事は非難されるような事ではありません。むしろご先祖様を大事にしたいから墓じまいするんだと胸を張っても宜しいのではないでしょうか。世間には色々な考えの方もありますが、良心に従って進めて頂ければ何の問題も無いと断言致します。墓じまいをお考えの方の中にも様々な事情から二の足を踏んでおられる方も少なくないでしょう。今回の記事が何かのお役に立てれば幸いです。